示談金の過剰請求への対策│「脅迫罪」「恐喝罪」になりうるケース
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刑事事件の加害者になってしまったときは、逮捕や起訴を回避し、軽い刑で終えるためにも、被害者との示談が重要になります。
しかし、被害者との示談交渉をする際、被害者から相場を著しく上回る示談金の支払いを求められる可能性もあります。示談金の過剰請求は、直ちに違法になるわけではありませんが、相手の言動によっては、「脅迫罪」や「恐喝罪」が成立する可能性もあります。
そのため、違法な過剰請求を受けているときは、すぐに示談に応じるのではなく、専門家である弁護士に相談するのがおすすめです。今回は、示談金の過剰請求への対策や示談金の決め方などについて、ベリーベスト法律事務所 浦和オフィスの弁護士が解説します。


1、示談金の過剰請求とは
まず、示談金がどのようなものか、さらに過剰請求を受けることの違法性について、詳しく解説しましょう。
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(1)そもそも示談金とは?
刑事事件においては、加害者から被害者に対して「示談金」と呼ばれるお金が支払われることがあります。示談金は、被害の弁償や慰謝料などを含んだ金銭の総称で、犯罪被害を受けた方に対する損害賠償という意味があります。
刑事事件の加害者は、被害者と示談をすることにより、逮捕や起訴を回避したり、刑事処分を軽くしたりできる可能性があるでしょう。そのため、刑事事件においては、示談を成立させることが特に重要です。 -
(2)示談金の過剰請求とは
示談金の過剰請求とは、相場を上回る示談金を請求する行為をいいます。
示談金には、一定の相場があるため、基本的には相場を踏まえた金額で示談交渉が行われます。しかし、だからといって、相場を上回る示談金の請求が禁止されるわけではありません。事件により多大な精神的苦痛を受けて、加害者への処罰感情が強い被害者からは、相場を上回る示談金の請求がなされることもあります。
このような示談金の過剰請求は、直ちに違法になるわけではありません。しかし、過剰請求の際の被害者の言動によっては、「脅迫罪」「恐喝罪」が成立する可能性もあります。
2、刑事事件の示談金はどうやって決まるのか?
以下では、刑事事件における示談金の決め方と、示談金を決める際の考慮要素を説明します。
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(1)刑事事件の示談金の決め方
刑事事件の示談金は、基本的には被害者と加害者との示談交渉によって決めていきます。
示談は、当事者の合意による解決手段です。そのため、被害者と加害者の双方が示談金の金額に納得し合意ができれば、示談成立となります。つまり、被害者と加害者の合意があれば、相場を上回った金額でも、下回った金額でも示談することができます。
しかし、一般的には、後述する考慮要素を踏まえて示談金の金額が算出されるため、相場の範囲内で示談が成立するケースが多いでしょう。 -
(2)示談金の金額を決めるときの考慮要素
刑事事件の示談金は、以下のような要素を確かめながら決められます。
① 被害の程度
示談金は、被害弁償としての要素があります。そのため、刑事事件により被害者にどのような損害が生じたのかが、考慮要素のひとつになります。
刑事事件で被害者に生じる主な損害は、以下のようなものが挙げられるでしょう。- 治療費
- 休業損害(治療や事件の対応で仕事を休んだことによる減収分の補償)
- 物的損害(物を壊された、物を盗まれた場合の補償)
なお、加害者が被害の程度を正確に把握するには、被害者側から領収書、休業損害証明書などの根拠資料を出してもらう必要があります。
② 被害者に生じた精神的苦痛の程度
示談金には、被害者に生じた精神的苦痛への賠償である「慰謝料」も含まれます。そのため、被害者に生じた精神的苦痛の程度も、考慮要素のひとつになります。
窃盗罪、詐欺罪、横領罪などの財産犯であれば、基本的には被害額相当の金額を賠償します。一方、傷害罪や性犯罪では、実損とは別に精神的苦痛に対する慰謝料が発生します。このような犯罪の場合、被害者の精神的苦痛の程度も考慮して示談金を決めていかなければなりません。
③ 被害者の処罰感情の強さ
被害者の処罰感情の強さも、示談金に影響を与える要素のひとつです。
示談を成立させるためには、被害者との和解を目指す必要があります。しかし、被害者の処罰感情が強いと、示談がなかなか進まないこともあるでしょう。また、相場どおりの示談金では、示談に応じてもらえない可能性もあります。
このような場合には、相場よりも上乗せした示談金を提示するなどの対応を検討しましょう。
④ 加害者の社会的地位や経済状況
示談金は、加害者の社会的地位や経済状況も考慮して決められます。
たとえば、教師や公務員などの社会から信頼されている職種の人が犯罪を起こし、刑事事件化してしまったときは、社会的な関心が高く、影響も広がりやすくなります。そのため、刑事事件化する前の段階で、被害者との示談をまとめることが大切です。より確実に示談で解決できるよう、相場よりも高い金額を提示することも検討しましょう。
また、経営者などの経済的に余裕がある方が加害者とされた場合、示談金も高額になる傾向があります。
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3、示談金の過剰請求が「脅迫罪」「恐喝罪」になりうるケース
示談交渉をするにあたっては、示談金について加害者と被害者で意見が合わないこともあるでしょう。しかし、被害者からより多くの示談金を求められた際、その請求の方法によっては違法行為となることがあります。
示談金の過剰請求が、「脅迫罪」や「恐喝罪」に該当する可能性があるケースを、いくつか紹介します。
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(1)高額な示談金を要求し、支払わなければ危害を加える旨の発言をする|恐喝罪
被害者が加害者に対して相場を著しく上回る示談金を要求し、支払いに応じなければ危害を加えるといった発言をした場合、恐喝罪が成立する可能性があります (刑法249条)。
恐喝罪とは、暴行や脅迫を用いて相手を怖がらせ、財物または財産上の利益を得る犯罪です。
たとえば、加害者を殴るなどして過剰請求に応じさせることや、「支払いに応じないと犯罪について家族や職場にバラす」などと脅迫をして過剰請求に応じさせる、といった行為が恐喝罪にあたります。
なお、恐喝罪が成立した場合は、10年以下の懲役に処される可能性があります。 -
(2)過剰請求に応じない相手に対し、危害を加える旨の発言をする|脅迫罪
過剰請求に応じないからといって、加害者に危害を加える旨の発言をした場合は、脅迫罪が成立する可能性があります (刑法222条)。
脅迫罪とは、生命・身体・自由・名誉・財産に対して危害を加えることを告知した場合に成立する犯罪です。脅迫行為が、財物または財産上の利益の交付に向けられていた場合は恐喝罪が成立しますが、そうでなければ脅迫罪となります。
なお、刑事事件として脅迫罪が成立した場合は、2年以下の懲役または30万円以下の罰金に処される可能性があります。
4、被害者からの過剰請求をされたときの対処法
被害者から過剰請求を受けた場合には、以下のような対処法が考えられます。
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(1)弁護士に相談して示談金の相場を教えてもらう
被害者から示談金を要求されたとしても、その金額が相場どおりなのか、過剰請求なのかは、一般の方では判断が難しいでしょう。示談金相場の判断を誤り、適正な示談金の請求なのに過剰請求を前提とした対応をしてしまうと、被害感情を逆なでして示談が難しくなるリスクもあります。
そのため、適正な示談金相場を把握するためにも、まずは弁護士に相談するようにしましょう。弁護士であれば、事件内容や被害の程度から適正な示談金相場を判断できるため、被害者の請求が過剰請求であるかを判断可能です。 -
(2)相場を著しく上回る示談金の要求には応じない
ここまで記載のとおり、刑事事件において有利な処分を獲得するには、被害者との示談が重要です。しかし、相場を著しく上回る示談金を請求された場合には、無理に応じる必要はありません。
加害者として適正な示談金を提示しているのに、それを拒否され過剰請求を受けてしまった場合は、検察官にその経緯を伝えましょう。最終的な処分において、加害者に有利な事情として考慮される可能性があるからです。過剰請求をされた場合、事案によっては、示談が成立していなくても、不起訴処分を獲得できることもあります。 -
(3)しつこい過剰請求を受けたときは対応を弁護士に委ねる
被害者から執拗(しつよう)な過剰請求を受け、身の危険を感じるときは、被害者との示談交渉を弁護士に依頼するべきです。
弁護士であれば、被害者との示談交渉をすべて代行することができます。そのため、精神的な負担を軽減できるとともに、過剰請求により被害者から危害を加えられるリスクを回避することもできるでしょう。また、弁護士が窓口になって交渉をすれば、被害者も相場を意識して請求せざるを得なくなります。そして、相場どおりの金額で示談できる可能性も高くなるでしょう。
このように、刑事事件で被害者から過剰請求をされたときは、弁護士のサポートが有効なため、早めに弁護士に相談するようにしましょう。
5、まとめ
刑事事件の示談金には一定の相場があるため、被害者と示談交渉をする際には、相場を意識して交渉を進めていくことが大切です。被害者から示談金の相場を著しく上回る過剰請求をされた場合、具体的な状況によっては脅迫罪や恐喝罪が成立する可能性もあります。そのような場合は、被害者との対応を弁護士に任せるのがおすすめです。
刑事事件を起こしてしまい、被害者から示談金の過剰請求をされている方は、ひとりで抱え込まず、まずはベリーベスト法律事務所 浦和オフィスまでご相談ください。
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