離婚時の財産分与で妻の貯金は分割対象になる? 権利を守る交渉方法

2025年02月12日
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離婚時の財産分与で妻の貯金は分割対象になる? 権利を守る交渉方法

さいたま市の公表している保健統計によると、令和4年、浦和区では183組の夫婦の離婚が成立しました。

離婚時に話し合う離婚条件のひとつが「財産分与」です。財産分与を行う場合、離婚後の生活を考えると、可能な限り自分の財産を守りたいと考えるのは自然なことでしょう。

では財産分与の際、妻の貯金は分与の対象になるのでしょうか? 財産分与に妻の貯金が含まれるのか、それとも含まれずに済む場合があるのかについて、ベリーベスト法律事務所 浦和オフィスの弁護士が解説します。


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1、離婚と財産分与|妻の貯金も対象となる?

離婚をする時によく争いになる離婚条件のひとつが「財産分与」です。
財産分与の概要と原則、そして妻の貯金は一般的にどう扱われるのかについて解説していきます。

  1. (1)財産分与とは

    「財産分与」とは、夫婦で婚姻期間中に築き上げた財産を離婚時に分ける手続きです。原則として、夫婦で折半しますが、話し合い次第では、その分与の割合を6:4、7:3のように変えることも可能です。

    財産分与は民法768条に規定されています。

    民法768条1項
    「協議上の離婚をした者の一方は、相手方に対して財産の分与を請求することができる」


    財産分与は、① 清算的財産分与、② 扶養的財産分与、③ 慰謝料的財産分与の3種類があるといわれています。

    それぞれの内容について詳しくみていきましょう。

    ① 清算的財産分与 夫婦で協力して築き上げた共有財産を清算する財産分与のこと。最も一般的な財産分与といえる
    ② 扶養的財産分与 離婚後に経済的に困窮する元配偶者等を扶養するために行われる財産分与のこと
    ③ 慰謝料的財産分与 慰謝料の意味合いを含めて、本来慰謝料を受け取る側に対して多めに財産分与を行うこと

    ②の扶養的財産分与は、以下のようなケースに該当する配偶者等に対し、経済状況が安定するまでの間、生活費を補助するために行われます。

    • 長期間専業主婦(専業主夫)をしていて、すぐに就職することが難しい
    • 病気や怪我により働くことができない
    • 熟年離婚のため、離婚時に高齢で仕事を見つけることが難しい
    など


    有責者(不貞行為やDVなどの離婚原因を作った配偶者)に対する慰謝料請求は、財産分与とは分けて請求するのが一般的です。

    ③の「慰謝料的財産分与」は、そのような場合に、慰謝料も財産分与も共に金銭問題であることから、慰謝料の意味合いを含めて財産分与を行うものです。

  2. (2)財産分与の対象財産

    財産分与の対象財産のことを「共有財産」といいます。具体的には、以下の財産です。

    主な共有財産
    • 現金や預貯金
    • 自動車
    • 家具や家電
    • 家や土地などの不動産
    • 学資保険や生命保険等の解約返戻金
    • 退職金
    など


    共有財産とは逆に、財産分与の対象にはならない財産を「特有財産」といいます。具体的には以下の通りです。

    主な特有財産
    • 結婚前から貯めていた貯金
    • 贈与や相続で得たお金
    • 別居後に貯めた貯金
    など


  3. (3)妻の貯金はどう扱われるのか

    妻の貯金の扱いについてですが、それが「共有財産」である場合には財産分与の対象になります。

    したがって、結婚してから貯めた預貯金については、妻名義の貯金であっても、原則、夫と2分の1ずつ分けなければなりません。

    逆に、「特有財産」に該当する妻の預貯金については、財産分与の対象外になります。次章で詳しくみていきましょう。

2、妻の貯金が財産分与の対象外になるケース

妻の貯金が財産分与の対象外になるケースをご紹介していきます。

  1. (1)結婚前の貯金

    前述の通り、結婚前・独身時代の貯金は「特有財産」にあたるため、財産分与の対象にはなりません

    しかし、結婚前からの貯金口座をそのまま婚姻後も利用しているようなケースでは、結婚前の貯金と結婚後の貯金が区別できず、「共有財産」として財産分与の対象になってしまう場合もあります。

    それを防ぐためには、結婚前からの通帳を残しておき、結婚前の取引履歴や残高を証明できるようにしておくことが大切です。

  2. (2)相続や贈与で得た貯金

    相続や贈与により得た貯金は「特有財産」にあたるため、財産分与の対象にはなりません
    なお、貯金以外の車や土地、家などの不動産も、相続や贈与によって得たのであれば「特有財産」に当たるため、財産分与の対象外です。
    しかし、配偶者が、相続や贈与により得たものを含め、離婚時の貯金について財産分与を求めてくる場合もあります。その場合には、相続や贈与で得たものだという証拠が必要になるため、遺産分割協議書や贈与契約書など、証拠になるものを残しておきましょう。

  3. (3)別居後の貯金

    別居後に蓄えた貯金も「特有財産」として扱われるため、財産分与の対象外になります

    配偶者が離婚交渉をする際の口座残高を分与対象とすべきだと主張してくることがあるかもしれませんが、別居時の残高を示すことで、多くの場合は解決できるでしょう。

3、スムーズな離婚を目指す! 財産分与の交渉術

財産分与についての話し合いは、スムーズに離婚を進めるためにも重要です。

そこで、財産分与に関する交渉手順について説明していきます。

  1. (1)事前準備│共有財産の確認

    交渉の前に、まずは財産分与の対象になる共有財産がどれくらいあるのか調べておくことが重要です。

    共有財産は、「(もしあれば)夫婦共有の預貯金口座を確認する」、「お互いの通帳を開示し、残高を確認する」ことなどによって確認することができます。

    しかし、相手に通帳の開示を拒否されたり、「財産隠し」が行われるケースもあります。
    相手に通帳の開示を拒否された場合にとれる、2つの対処法をみていきましょう。

    ① 弁護士会照会制度
    「弁護士会照会制度」とは、仕事の依頼を受けた弁護士が、その職務を円滑に進めるために必要な証拠・資料を収集するための制度です。

    この制度を用いて、金融機関などに預金残高や取引状況の情報を開示するように請求することができる場合があります

    ただし、情報の開示を求められた団体には開示の義務まではありませんので、判決等を取得していない限りは開示を拒否される可能性が高いです。

    そこで利用する制度が、「調査嘱託制度」です。

    ② 調査嘱託制度
    「調査嘱託制度」とは、裁判所から金融機関などに対して、預金残高や取引状況などの情報開示を求めることができる制度のことを指します。調査嘱託も弁護士会照会同様に、金融機関等には回答の義務があるわけではありませんが、裁判所が開示を求めることにより回答が得られる可能性が高くなります。

    たとえば、財産分与では以下の場合に利用されます。

    • 配偶者の預貯金の情報を金融機関に確認する
    • 配偶者の収入情報を勤務先に確認する


    裁判所が嘱託を出すことで、相手が開示を拒否していても相手の財産情報を入手できる可能性が高まります。ただし、この制度を利用するためには「調停・審判」や「訴訟」手続き中であることが必要です。

    調査嘱託の申立ては自分でも行うことができますが、弁護士に依頼した方がより効率的です。手続きを弁護士が代行することで、時間や精神的な負担が軽減されることはもちろん、嘱託の必要性を分かりやすく記載することで、調査嘱託が裁判所に認められやすくなります。その結果として、相手との交渉、早期解決が期待できます。

  2. (2)条件を検討する

    財産分与の対象になる共有財産が確定したら、交渉の条件を検討します。

    どの家具や家電が欲しいのか、自動車は売却して現金化した上で分けるのか、それともどちらかが乗り続けるのか、家や土地などの不動産はどう分けるのかなど、希望する財産分与の条件を決めておきましょう。

    その際は、相手の主張を想定した上で「この条件だったら合意できる」という最低ラインを設定しておくことも重要です。

    自分に不利にならないようにしつつ、相手からの合意も得られそうな最低条件を検討しておくことをおすすめします。

  3. (3)交渉する

    いよいよ交渉です。スムーズに話し合いを進める上での注意点をご紹介します。

    ① 相手を刺激しすぎない
    「相手を刺激しすぎない」というのは、交渉において重要なポイントのひとつです。

    たとえば、相手の不貞行為が原因でも、「あなたのせいで離婚するのだから、財産分与の条件は私の思う通りにしてほしい」と、相手を責め立ててしまうと、相手が逆上し、思うように交渉が進まない可能性が高くなります。

    自分の条件と相手の条件をすり合わせ、円滑に離婚を進めるためにも、相手を刺激しすぎないように、感情的にならないよう冷静に話す必要があります。

    そのためには、相手の話を途中で遮らず、相づちを打ちながら最後まで聞いた上で、冷静に自分の主張を伝えるように心がけましょう。

    ② 相手の出方を想定する
    相手の性格等によっては交渉の場を選ぶことも重要です。

    たとえば、離婚理由が相手からのDVだった場合、交渉の場は自宅ではなく、できるだけ第三者の目がある公共の場にしておいた方が良いでしょう。

    ③ 相手の利益も考える
    自分の利益だけに固執すると、相手からの合意を得ることはできず、交渉は決裂してしまいます。

    交渉をまとめるためには、自分だけではなく相手の利益も考えることが重要です。交渉していく中で、相手の譲れない部分はどこなのか見極め、できる限りお互いが納得できるように条件を出していきましょう。

    冷静な話し合いや交渉が難しいと感じる場合は弁護士に相談することをおすすめします。

4、弁護士に相談した方が良いケース

相手の不貞やDVなどが原因で離婚する場合、交渉は弁護士に任せるのが得策です。また、財産分与についての交渉で、感情的になってしまい、なかなか冷静に話し合いを進めることが難しい場合にも、弁護士に交渉を依頼した方が良いでしょう

相手が通帳を開示してくれない場合でも、弁護士に依頼すれば、調査嘱託を利用して相手の預金残高や取引情報を取得できる可能性が高まります。

その他にも、そもそも話し合いに応じてもらえないケースや、調停や審判に発展するケース、どうすればいいかわからず困っているといったケースでも、弁護士に相談することで、交渉が進むケースも少なくありません。

なお、スムーズな交渉のためには、離婚トラブルの解決実績が多い弁護士を選ぶことが重要です。

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5、まとめ

離婚時、結婚後に貯めた妻の貯金は財産分与の対象になりますが、結婚前に貯めた貯金や、相続・贈与で得た貯金、別居後に貯めた貯金は財産分与の対象にはなりません。

しかし、相手から「その貯金は財産分与の対象だから分けろ」と主張された場合に備えて、通帳の取引履歴や遺産分割協議書などの証拠を集めておくことが大切です。

また、財産分与に関する交渉はご自身で行うことも可能ですが、感情的になりそうなケースや調停に発展しそうなケースなど、ご自身だけでは難しい場合もあります。

そんな時は、弁護士に相談・依頼をすることで、交渉や調停・審判などの裁判手続きを代理してもらうことが可能です

財産分与でお困りの際には、ぜひベリーベスト法律事務所 浦和オフィスの弁護士にご相談ください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています