別居時に夫婦の共有財産を持ち出された! 対処法を弁護士が解説
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さいたま市が公表している「さいたま市保健統計」によると、令和5年の浦和区の離婚件数は176件と報告されています。
離婚を見据えて別居をする際に、配偶者が共有財産を勝手に持ち出してしまい、トラブルに発展するケースがあります。別居時に共有財産を持ち出されてしまったらどのように対処すればよいのでしょうか?
本記事では、別居時に夫婦共有財産を勝手に持ち出されてしまった場合の対処法について、ベリーベスト法律事務所 浦和オフィスの弁護士が解説します。


1、財産分与の基本的な考え方
離婚する際、夫婦で築いた財産をどのように分けるのかは、大きな問題の一つです。まずは財産分与の基本について確認していきましょう。
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(1)財産分与とは何か
「財産分与」とは、夫婦で婚姻期間中に築いた財産を、離婚時に分ける制度のことです。基本的には夫婦で半分ずつ分けることになります。
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(2)共有財産と特有財産
財産分与を行うためには、対象となる財産を確定することが重要です。
財産分与の対象になる財産を「共有財産」、財産分与の対象にならない財産を「特有財産」といいます。どの財産がどちらに分類されるのかを正しく理解しておくことが、適切な財産分与につながります。
婚姻期間中に夫婦が共同で築いた財産は、原則として共有財産となり、財産分与の対象になります。具体的には、次のような財産が含まれます。- 現金、預貯金
- 自動車
- 家具、家電
- 不動産(家や土地)
- 学資保険や生命保険
- 株式や国債などの有価証券
- 退職金
夫や妻の単独名義になっている預貯金や車といった財産に関しても、婚姻期間中に貯めたものや購入したものは共有財産として財産分与の対象になります。
一方で、以下の財産は婚姻期間中に夫婦の協力によって形成されたものではない「特有財産」となるため、財産分与の対象にはなりません。- 結婚前から貯めていた貯金
- 贈与や相続で得たお金
- 別居後に貯めた貯金
特有財産として認められるためには、結婚前の預貯金通帳や相続財産であることを示す根拠資料(遺産分割協議書など)を残しておくことが重要です。
2、別居時に共有財産が持ち出された場合の対処法
別居時に配偶者が家具や預貯金などの共有財産を勝手に持ち出してしまった場合は、どのように対処すればよいのでしょうか?
ここでは、共有財産が持ち出された場合の適切な対処法をご紹介します。
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(1)持ち出された共有財産は離婚時の財産分与で調整
夫婦で使っていた家具家電や夫婦で貯めた預貯金を持ち出された場合、離婚時の財産分与において調整するのが基本です。
預貯金を持ち出された場合は持ち出された金額を、家具家電などを持ち出された場合は持ち出された物の価値を考慮し、財産分与の際に清算します。
話し合いで解決できず裁判になった場合は、裁判官に財産分与での清算を認めてもらうためにも「持ち出されたものが共有財産である」という証拠と「そのものを相手が勝手に持ち出した」ことを示す証拠が必要です。裁判になった場合に備え、領収書やクレジットカードの取引明細書、保管状況がわかる写真などを準備しておきましょう。 -
(2)返還や損害賠償請求は可能か?
勝手に共有財産を持ち出されると返還や損害賠償請求を求めたいお気持ちは理解できますが、基本的には返還や損害賠償請求はできません。なぜなら、共有財産は夫婦の共同財産であり、どちらか一方の所有物とはいえないためです。たとえば、夫が持ち出した家電や預貯金は、法的には妻と夫の両方に権利があるため、勝手に持ち出されたとしても「不法な占有」とは判断されにくいのです。
ただし、以下のケースに該当する場合は例外的に返還を請求できる可能性があります。相手が意図的にこちらに損害を与えようとしているなどの場合には損害賠償請求が認められる可能性もあります。- 全財産を持ち出すなど、財産分与の範囲を大きく超える可能性のある持ち出しをしている場合
- 生活費とは関係なく嫌がらせ目的で共有財産を持ち出した場合
- 共有財産を持ち出すことで相手が困窮してしまう場合
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(3)預金が持ち出された場合には婚姻費用の取り扱いに注意が必要
別居後も、離婚成立するまでの期間は、収入が多い配偶者が、収入が少ない配偶者に対して婚姻費用(生活費)を支払う義務があります(民法760条)。
預金が持ち出された場合、それを婚姻費用の代わりとして婚姻費用は払わなくてもいいのかというと、そうではありません。例外的に婚姻費用の前払いと評価される可能性もありますが、基本的には預金を持ち出された=婚姻費用の支払いが不要、ということにはならないのです。
先ほど解説したとおり、持ち出された共有財産は、原則として財産分与時に清算します。そのため、婚姻費用を受け取る側の配偶者が共有財産を持ち出した場合であっても、原則として、支払う側の配偶者は婚姻費用の支払い義務を免れません。もちろん、財産分与額の計算は複雑になりますが、当事者双方が合意すれば、持ち出した財産について婚姻費用の前払いと扱うことも可能です。
3、持ち出されたものが特有財産だった場合はどうなる?
財産分与の対象になるのは「共有財産」のみであり、「特有財産」は含まれません。しかし別居時、配偶者に特有財産を持ち出されてしまった場合はどうすればよいのでしょうか?
ここでは、特有財産が持ち出された場合の対処法について解説します。
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(1)返還請求をする
別居時に自分の特有財産が持ち出されてしまった場合は返還請求をすることができます。ただし、そのためには「持ち出された財産が特有財産である」という証拠と「相手がその特有財産を勝手に持ち出した」という証拠が必要です。
たとえば、持ち出されたのが相続で得た預貯金の場合は相続の時に作成した遺産分割協議書、婚姻前に購入した家電等の場合は領収書やクレジットカードの取引明細書などを用意した上で返還請求しましょう。
証拠がないと共有財産とみなされる可能性があるため、特有財産を守るためにも、日頃から証拠を残しておくことが重要です。 -
(2)返還請求に応じない場合は裁判を検討する
配偶者が特有財産を持ち出したにもかかわらず返還に応じない場合、法的手続きを検討する必要があります。
まずは直接会っての話し合いや、電話、メール、内容証明郵便等による請求を試み、それでも解決しない場合は以下の手続きを検討するのがいいでしょう。① 不当利得返還請求訴訟を提起する
「不当利得返還請求訴訟」とは、他者の財産を持ち出した相手に対して、その返還を求める裁判です。特有財産の持ち出しが明らかであり、相手が返還に応じない場合に有効です。裁判で請求が認められるためには、「相手が持ち出した財産が特有財産である証拠」などが必要になります。
② 離婚と同時に解決を図る(離婚調停・離婚裁判)
離婚請求も同時に行いたい場合は、「離婚調停」を申し立て、離婚に伴う財産分与と特有財産の持ち出し問題を一緒に解決するという方法をとることも可能です。「離婚調停」は調停委員会の仲介のもと話し合いで争いを解決する制度で、家庭裁判所に申し立てる必要があります。
離婚調停がうまくいかなかった場合は「離婚裁判」の提起を考えましょう。離婚裁判では証拠をもとに裁判官が争いについての判決を下します。裁判で裁判官に自分の主張を認めてもらうためにも、証拠は必ず用意しておきましょう。 -
(3)処分・消費されていた場合は代価請求をする
持ち出された特有財産が金銭ではなく、すでに処分されてしまった場合、その代わりとなる金銭(代償金)の請求が可能です。
たとえば、婚姻前に購入した家電を勝手に売却された場合、売却代金相当額の金銭を請求できます。場合によっては損害賠償請求ができる可能性もあるでしょう。
ただし、持ち出された特有財産が処分等されてしまったものの、請求をした際に相手がその代金に相当する金銭や財産をもっていない場合には、相手の給与等を差し押さえるか、財産分与の中で調整することを検討ください。
4、離婚前に別居する場合の財産分与のポイント
離婚前に別居する際は、財産分与を見据えた準備が重要です。財産の整理や調査を適切に行うことで、財産分与で不利になるリスクを減らせます。
ここでは、別居前に確認しておくべき3つのポイントを解説します。
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(1)何が共有財産にあたるのか整理しておく
離婚前に別居する場合、その時点で財産分与の対象となる「共有財産」と、対象外の「特有財産」を区別しておくことが重要です。
婚姻してから別居するまでの期間に築いた夫婦の共有財産を把握し、整理しておきましょう。 -
(2)相手方配偶者の財産について調査しておく
共有財産を把握する際に、お互いの財産(個人口座やへそくりなど)を開示する必要がありますが、相手方配偶者が開示を拒否する、財産を隠すなど、相手の財産を正確に把握できない場合があります。
相手の財産を把握し、自分が財産分与で損をしないためにも、相手の銀行通帳や金融機関からの郵便物などを確認し、隠し口座等、あなたの知らない財産がないのか調べてみましょう。
「隠し財産を持っていそうだが自分では探しきれない」といった場合には、弁護士に相談することもおすすめです。 -
(3)弁護士に相談する
相手の財産隠しが疑われる場合、弁護士に相談してみましょう。弁護士に相談すれば、共有財産を把握するためのアドバイスを受けることができます。
また、弁護士に依頼すれば「弁護士会照会」という制度を利用して、相手の財産に関する情報を得られる可能性もあります。
そのほかにも、財産分与はもちろん、離婚自体や慰謝料請求に関する相手との交渉、話し合いの内容の記録・整理、調停や裁判になった場合の対応などを任せることも可能です。
財産分与は、相手の財産を把握することも大切ですが、自分の特有財産を「それは共有財産だから分けろ」と相手に主張された時に備えて、反論できるような証拠を用意しておくことも大切です。
自分に不利にならないように財産分与するためにも、なるべく早い段階で弁護士に相談することをおすすめします。
お問い合わせください。
5、まとめ
別居時に配偶者に共有財産を持ち出された場合、基本的には離婚時の財産分与で清算します。返還や損害賠償請求は原則として認められませんが、例外的に請求できるケースもあるため、状況に応じた対応が必要です。
特有財産を持ち出された場合には返還請求をすることができますが、処分済みの場合は代償請求も考えられます。
離婚前に別居する場合には、相手の共有財産の把握が重要です。しかし、なかには相手から財産を隠されてしまうケースもあります。
弁護士に相談することで、適切な財産分与の進め方や、隠された財産の調査についてアドバイスを受けることができます。財産分与で不利にならないためにも、早めの相談をおすすめします。財産分与に関するお悩みは、ベリーベスト法律事務所 浦和オフィスの弁護士にご相談ください。
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