休職制度とは? 企業が休職制度を導入する際の流れや注意点
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2022年度に埼玉県内の総合労働相談コーナーに寄せられた民事上の個別労働紛争にかかる相談は延べ1万1086件で、そのうち雇用管理等に関するものは326件でした。
休職制度を設けることは、会社・従業員の双方にとってメリットがあります。未導入の企業においては、休職制度のメリットを踏まえた上で、導入の可否や方法を検討することをおすすめします。
本記事では休職制度について、概要・メリット・導入手順・注意点などをベリーベスト法律事務所 浦和オフィスの弁護士が解説します。
出典:「『令和4年度個別労働紛争解決制度の施行状況(埼玉労働局)』を公表します」(埼玉労働局)
1、休職制度とは
休職制度とは、労働者の個人的な事情による休職を認める制度です。
法令上、休職制度を設けることは義務付けられていませんが、福利厚生などの観点から、会社が独自に休職制度を設けるケースがあります。
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(1)休職と休業の違い
「休職」とは、労働者の個人的な事情により、雇用関係を維持したまま一定期間にわたって労働を取り止めることを意味します。
これに対して「休業」は、会社側の都合や法令の規定により、雇用関係を維持したまま一定期間にわたって労働を取り止めることを意味します。
労働義務が免除される点で休職と休業は共通していますが、休職は労働者の個人的な都合によるのに対して、休業は会社側の都合または法令の規定による点が異なります。
このような違いを反映して、休職は無給で特に賃金の保障などもないのが一般的ですが、休業に対しては各種の手当・給付などが用意されています。 -
(2)主な休職の種類
休職の種類としては、以下の例が挙げられます。休職制度の有無および種類は、会社によって千差万別です。
(例)- 私傷病休職:業務や通勤を除く原因による、病気・怪我を理由とする休職です。
- 留学による休職:自己研鑽やスキル向上のため、留学をする期間について認められる休職です。
- 公職就任による休職:任期付き公務員など、公職へ就任する労働者について認められる休職です。
- 事故欠勤による休職:病気・怪我以外の自己都合を理由に認められる休職です。家族の介護が必要になった場合や、逮捕・起訴等によって就労できなくなった場合に認められることがあります。
- 組合専従による休職:労働組合の業務に専念することを理由として認められる休職です。
- 出向による休職:会社との雇用関係を維持したまま、別の会社で働く労働者について認められる休職です。
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(3)会社による休職命令の可否
休職は、労働者側の申請によって認められることが多い一方で、会社の休職命令により、労働者の意思に反して行われることもあります。
たとえば以下のようなケースにおいては、会社が休職命令を行うことがあります。- 労働者の健康状態の悪化によって労働が困難になった場合
- 労働者が業務上の大きなミスをした場合
- 労働者が刑事事件の疑いをかけられた場合
会社が休職命令を行うためには、休職制度を定めた労働契約や就業規則における根拠が必要となります。具体的な状況と根拠規定を照らし合わせて、休職命令が可能であるかどうかを慎重に検討しましょう。
2、企業が休職制度を導入するメリット
休職制度を導入することには、会社・従業員の双方にとってメリットがあります。
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(1)会社から見た休職制度のメリット
会社から見た休職制度の主なメリットとしては、以下の各点が挙げられます。
- 従業員の離職を防げる:勤務できない従業員を直ちに退職させるのではなく、休養を与えて立ち直らせることができる可能性があります。
- 労働環境の魅力が向上し、優秀な人材を確保しやすくなる:休職制度が充実している労働環境は、求職者にとって魅力的に映るため、優秀な人材を採用しやすくなることが期待されます。
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(2)従業員から見た休職制度のメリット
従業員から見た休職制度の主なメリットとしては、以下の各点が挙げられます。
- 働けなくなっても、直ちに退職せずに済む:休職制度があれば、何らかのアクシデントで働けなくなっても、その制度を利用して休職することができるので、直ちに退職へ追い込まれずに済みます。
- 外部でキャリアや経験を積める可能性が生じる:休職して会社への在籍を維持しつつ、出向や任期付き公務員など社外における業務を経験できる可能性が生じ、キャリアの多様化に繋がります。
3、休職制度を導入する際の手順・流れ
企業が休職制度を新たに導入する際には、以下の流れで手続きを進めましょう。
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(1)休職の条件・期間・復職手続きなどを決める
まずは、休職制度の内容を決める必要があります。具体的には、以下の事項などを決定しましょう。
- 休職が認められる条件
- 休職の期間
- 復職する際の手続き
休職制度の内容は、取締役の間で話し合って決めるケースが多いですが、現場の意見を取り入れるため、従業員側の担当者(管理職など)も巻き込んで話し合うことも考えられます。
休職制度の内容が決まったら、取締役会などで決議して確定しましょう。 -
(2)就業規則などに休職制度を反映する
確定した休職制度の内容は、就業規則などの社内規定に反映させましょう。
特に、常時10人以上の労働者を雇用する事業場では、休職制度を定めた場合には就業規則に反映することが必須となります(労働基準法第89条)。
この場合、就業規則を変更する際には、労働者側の意見書を添付した上で労働基準監督署に届け出なければなりません(同法第90条)。
休職制度を就業規則などへ反映するに当たっては、文言の作成等について弁護士のアドバイスを受けることをおすすめします。 -
(3)休職制度の内容を従業員に周知する
新たに導入した休職制度の内容は、従業員に対して周知させなければなりません。
事業場におけるすべての従業員に対して、休職制度の内容が正確に伝わるような方法で周知を行いましょう。十分に理解することが難しい従業員に対しては、質問を受け付けるなどしてフォローすることが求められます。
特に就業規則において休職制度を定める場合は、以下のいずれかの方法によって変更後の就業規則を周知する必要があります(労働基準法施行規則第52条の2)。- (a)常時各作業場の見やすい場所へ掲示し、または備え付ける
- (b)書面を労働者に交付する
- (c)電子ファイルに記録し、かつ各作業場に労働者がその記録の内容を常時確認できる機器を設置する
4、休職制度の導入・運用に関する注意点
休職制度の導入および運用に当たっては、特に以下の3点に注意しましょう。
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(1)給与・賞与の取り扱いを明確化する
休職中の労働者に対しては、休職制度において別段の定めがない限り、会社は賃金を支払う必要がありません。
したがって、休職期間に対応する賃金を基本給から控除することができます。どのように控除額を計算するかについて、休職制度上のルールを明確化しておきましょう。
また、休職期間を賞与の計算に当たってマイナス評価とする例もよく見られます。この場合は、賞与の計算基準等において休職の評価方法を明記しておくとよいでしょう。 -
(2)社会保険料・住民税の回収方法を明確化する
社会保険料と住民税は、労働者に対して支払う賃金から控除するのが原則です。
しかし、休職中の労働者に対しては賃金の支払いが発生しない場合があるため、社会保険料や住民税を賃金から控除できないことがあります。
その場合は、会社口座に振り込んでもらうなど、社会保険料と住民税の回収方法をあらかじめ明確化しておきましょう。 -
(3)復職できない労働者への対応を定める|不当解雇に当たらないように要注意
特に病気によって休職する労働者は、休職期間満了までに回復に至らず、復職できないケースも想定されます。
復職できない休職者については、どこかの段階で退職させることを考えなければなりません。休職制度を導入する際には、復職できない労働者を退職させるための手続きを定めておく必要があります。
なお、労働者を退職させる際には、不当解雇に当たらないように注意が必要です。客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められない解雇は無効となってしまいます(労働契約法第16条)。
弁護士のアドバイスを受けながら、不当解雇を避けられるように適切な退職手続きを定めましょう。
お問い合わせください。
5、まとめ
休職制度を充実させると、従業員の離職防止や企業のイメージアップにつながるなどのメリットがあります。その反面、休職制度を適切に運用しなければ、従業員との間でトラブルに発展するおそれがあるのでご注意ください。
休職制度の導入や、その他の人事労務に関する取り組みについては、弁護士に相談するのが安心です。
ベリーベスト法律事務所は、企業の労務管理に関するご相談を随時受け付けております。休職制度の導入をご検討中の企業は、労働トラブルの解決実績があるベリーベスト法律事務所 浦和オフィスまでご相談ください。
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