不当労働行為とは? 種類や具体例、使用者側の適切な対処

2024年10月23日
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不当労働行為とは? 種類や具体例、使用者側の適切な対処

2022年度に埼玉県内の総合労働相談コーナーに寄せられた労働に関する相談は5万2753件でした。

使用者が不当に労働組合の活動を阻害する行為は「不当労働行為」に当たり、法律上禁止されています。労働組合側から不当労働行為を指摘された企業は、弁護士のアドバイスを受けながら適切に対応しましょう。

本記事では不当労働行為について、概要・種類・具体例・ペナルティ・労働組合対応のポイントなどをベリーベスト法律事務所 浦和オフィスの弁護士が解説します。

出典:「『令和4年度個別労働紛争解決制度の施行状況(埼玉労働局)』を公表します」(埼玉労働局)

1、不当労働行為とは

「不当労働行為」とは、労働者の団体行動を使用者が不当に阻害する行為です不当労働行為は労働組合法によって禁止されています

  1. (1)不当労働行為が禁止されている理由

    不当労働行為が法律上禁止されているのは、労働者の団体行動権(日本国憲法第28条)を実効的に保障するためです。

    一般に労働者は、使用者に比べて人員・資金力・知識などに劣ります。そのため、低賃金等の劣悪な条件で労働させられるなど、使用者から搾取されてしまいがちです。

    使用者の労働者に対する搾取を防ぐため、日本国憲法では労働者に団体行動権を保障しています。団体行動権によって労使の交渉力格差が是正され、対等な労使交渉が可能となることが期待されているのです。

    また、労働組合法第7条では、労働組合活動に対する妨害や労働者への差別、団体交渉の拒否などの不当労働行為を明確に禁止しています。

  2. (2)不当労働行為とパワハラの違い

    不当労働行為は労働者の団体行動権を制限する使用者の行為であり、パワハラ(パワー・ハラスメント)とは異なります。

    パワハラは、職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であって、業務上必要かつ相当な範囲を超えており、労働者の就業環境を害するものをいいます(労働施策総合推進法第30条の2第1項)。

    具体的には、身体的・精神的な攻撃、仲間外れ、不当な要求行為、プライバシーの侵害行為などがパワハラに当たります。また、パワハラの加害者が被害者に対して優越的な立場にあることが必要です(例:上司と部下など)。

    パワハラは労働組合に関する事柄に限らず、職場におけるあらゆる場面で発生することがあります。これに対して不当労働行為は、あくまでも労働者の団体行動を不当に制限する行為のみを指します

    ただし、不当労働行為がパワハラにも該当するケースはあります(例:労働組合活動を理由に、上司が部下を閑職へ左遷させた場合など)。

2、不当労働行為の種類と具体例

労働組合法第7条では、以下の行為を不当労働行為と定義しています。



  1. (1)組合活動などを理由とする不利益な取り扱い

    以下の事柄を理由として、使用者が労働者に対して解雇その他の不利益な取り扱いをすることは不当労働行為に当たります(労働組合法第7条第1号本文)。

    • 労働組合の組合員であること
    • 労働組合に加入したこと
    • 労働組合を結成しようとしたこと
    • 労働組合の正当な行為をしたこと
  2. (2)いわゆる「黄犬契約」

    「黄犬契約」とは、労働組合に加入しないこと、または労働組合から脱退することを条件として使用者が労働者を雇い入れる契約です。

    使用者が労働者と黄犬契約を締結することは、不当労働行為に当たります(労働組合法第7条第1号本文)。

  3. (3)正当な理由のない団体交渉の拒否

    使用者が労働者の代表者との団体交渉を正当な理由なく拒むことは不当労働行為に当たります(労働組合法第7条第2号)。

  4. (4)労働組合に対する支配・介入・経理上の援助

    労働者による労働組合の結成・運営を支配し、もしくはこれに介入することは不当労働行為に当たります(労働組合法第7条第3号)。

    また、労働組合の運営経費の支払いについて、使用者が経理上の援助を与えることも、原則として不当労働行為に当たります(同号)。

    ただし、労働者が有給の労働時間中に使用者との協議や団体交渉をすることを使用者が許すことは不当労働行為には当たりません。また、使用者が厚生基金や経済上の不幸・災厄防止のための基金に寄付をすることや、最小限の広さの事務所を労働組合に供与することも、不当労働行為に当たりません。

  5. (5)労働委員会への申立て等を理由とする不利益な取り扱い

    使用者の不当労働行為に関して、以下の申立て等を理由に、その労働者に対して解雇その他の不利益な取り扱いをすることは不当労働行為に当たります(労働組合法第7条第4号)。

    ① 労働委員会に対する不当労働行為の申立て

    ② 中央労働委員会に対する再審査の申立て

    ③ 労働委員会による、上記の①または②の申立てに係る以下の行為
    • 調査、審問
    • 当事者に対する和解の勧め

    ④ 労働関係調整法による労働争議の調整をする場合に、労働者が証拠を提示し、または発言をしたこと

3、不当労働行為をした使用者が受けるペナルティ

不当労働行為をした使用者は、以下のペナルティを受けるおそれがあります。



  1. (1)労働委員会等による救済命令|違反すると刑事罰あり

    不当労働行為をした使用者に対しては、労働者側の申立てにより、都道府県労働委員会または中央労働委員会によって救済命令が発せられます。

    都道府県労働委員会の救済命令に対して不服がある使用者は、原則として救済命令の交付日から15日以内に、中央労働委員会に対して再審査の申立てを行うことができます(労働組合法第27条の15第1項)。

    また、都道府県労働委員会または中央労働委員会の救済命令等に対しては、その交付日から30日以内に限り、裁判所に取消訴訟を提起することができます(同法第27条の19第1項)。

    取消訴訟の出訴期間が経過するか、または取消訴訟の判決が確定すると、救済命令が確定します。確定した救済命令に違反した使用者には、以下の罰則が科されるのでご注意ください。

    取消訴訟なしで救済命令が確定した場合 50万円以下の過料(同法第32条)
    取消訴訟を経て救済命令が確定した場合 1年以下の禁錮もしくは100万円以下の罰金(同法第28条)
    ※併科される場合があります。
  2. (2)民事上の損害賠償

    不当労働行為によって労働者や労働組合に生じた損害は、債務不履行または不法行為に基づき、使用者がこれを賠償しなければなりません(民法第415条第1項、第709条)。

4、不当労働行為を主張された企業の対処法|弁護士がサポートできること

労働組合側から不当労働行為を主張されたら、企業は弁護士のサポートを受けながら以下の対応を行いましょう。



  1. (1)団体交渉に対して誠実に応じる

    正当な理由のない団体交渉の拒否は不当労働行為に当たるため、労働組合側から団体交渉を求められたら、誠実に応じなければなりません。

    労働組合側の要求に耳を傾けつつ、使用者側の状況についても理解を求め、建設的な団体交渉を行いましょう

    交渉をスムーズに行うためには、弁護士を代理人として団体交渉の場に同席させるのも有効です。弁護士は、労働組合法の規定を踏まえつつ、使用者として適切な対応ができるようにその場でアドバイスし、必要に応じて代理で回答するなどのサポートをします

  2. (2)法的手続きに対応する

    労働組合側から労働委員会に対する申立てや損害賠償請求訴訟の提起などが行われた場合は、使用者側の行為の正当性を主張する、または和解を模索するなどの対応が求められます。

    弁護士は使用者側の代理人として、これらの法的手続きへの対応を適切に行います。使用者側の損害を最小限に抑えられるように、弁護士が使用者側の見解を説得的に主張します。

  3. (3)労働組合関連トラブルの再発防止を図る

    労働組合に関するトラブルが再発しないように、団体交渉に関するガイドラインを設けるなどして、労働組合側との間で認識を共有することも重要です。

    弁護士にご依頼いただければ、団体交渉ガイドラインの策定や、労働組合側との折衝を全面的にサポートいたします。

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5、まとめ

労働者の団体行動権を不当に阻害する使用者の「不当労働行為」は、労働組合法によって禁止されています。

労働組合側から不当労働行為を指摘されたら、労働組合法の規定や会社としてのリスクを踏まえた適切な対応が求められますので、弁護士のサポートを受けることをおすすめします

ベリーベスト法律事務所は、労働組合対応に関する企業のご相談を随時受け付けております。不当労働行為に関して労働組合側と争いが生じそうな場合は、ベリーベスト法律事務所 浦和オフィスにご相談ください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています