カラ残業とは? 発生原因や適切な対応方法を弁護士が解説
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埼玉労働局によると、長時間労働が疑われるとして令和5年度に埼玉県内の労働基準監督署が監督指導を行った584事業場のうち、賃金不払残業があったのは50事業場でした。
残業代の不払は会社がやってはならない不当行為ですが、逆に従業員が「カラ残業」の申請をするケースもあります。カラ残業とは、実際には残業をしていないにもかかわらず、残業をしたと会社に申告して不正に残業代を受給することをいいます。
本記事では「カラ残業」について、具体例や主な原因、懲戒処分や返金請求など企業の対応や予防策などをベリーベスト法律事務所 浦和オフィスの弁護士が解説します。
1、カラ残業とは?
「カラ残業」とは、実際には残業をしていないにもかかわらず、会社に対して残業をしたと申告して、不正に残業代を受給することをいいます。
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(1)カラ残業の具体例
カラ残業の例としては、以下のようなケースが挙げられます。
- 残業時間を実際の時間数よりも多く自己申告した
- 他の従業員に頼んで、退勤してから数時間後に自分のタイムカードを切ってもらった
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(2)カラ残業による企業への悪影響
従業員がカラ残業をすると、企業としては、本来よりも多い残業代を支払うことになってしまいます。残業には割増賃金が適用されることも考慮すると、カラ残業は企業にとって大きな損失です。
また、カラ残業でも残業代をもらえると考える従業員が増えると、まともに残業をする人が少なくなり、労働力不足に陥ってしまうおそれも懸念されます。
従業員によるカラ残業が横行している場合は、早急に調査をして対策を講じ、状況を改善しなければなりません。
2、カラ残業が発生する主な原因・理由
カラ残業は、主に以下のような原因で発生するケースが多いです。
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(1)従業員が給与に対して不満を抱いている
カラ残業をする従業員は、現状の給与に対して不満を抱いている可能性が高いです。
会社にバレるリスクもあるカラ残業に、あえて手を染める背景には、今の給与額に満足できず、さらに多くの給与を受け取りたいという考えがあるのかもしれません。
しかしながら、カラ残業をする気が起こらなくなるほど高水準まで給与を引き上げるのは、多くの企業にとって現実的でないでしょう。
給与の大幅な引き上げが難しいなら、別の方法でカラ残業対策を講じる必要があります。 -
(2)カラ残業をする従業員文化が受け継がれてしまっている
カラ残業の方法が従業員の間で共有されており、半ば「文化」のような状態で受け継がれてしまっているケースも見られます。
従業員側においても、強い罪悪感を覚えることなく、「他の人もやっているから」と軽い気持ちでカラ残業をしてしまっている例が少なくありません。 -
(3)労働時間の管理方法に不備がある
手書きのタイムカードや出勤簿の記入で勤怠管理が行われている職場では、残業時間をごまかすことが比較的簡単で、その方法を従業員間で共有することも容易です。
労働時間の管理を適切に行っていない場合は、残業代の支払い漏れが生じたり、カラ残業を見逃してしまったりするリスクが高く、企業にとって非常に危険な状態です。
パソコンで管理できるデジタル勤怠管理システムを導入して、労働時間の正確な管理に努めましょう。
3、カラ残業をした従業員への対応
従業員のカラ残業が疑われる場合には、状況に応じて以下の対応などを検討しましょう。
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(1)事実の確認・証拠の確保
まずは、実際にカラ残業が行われているのかどうか、どのくらいの時間数のカラ残業が行われたのかなど、事実関係を正確に把握することが大切です。
タイムカード、勤怠管理システムや建物の入退館記録など、企業側において確認できる客観的資料をチェックしましょう。さらに、カラ残業が疑われる従業員の上司や同僚などからも事情を聞き、業務の実態と残業時間が合っているのかどうかを調査しましょう。
事実関係を調査する過程で得られた資料は、きちんと保存しておくことが大切です。後に懲戒処分や給与の返還請求などを行う際に、企業側の主張を裏付ける証拠となります。 -
(2)口頭での注意
カラ残業が判明したのが初回であり、態様もそれほど悪質とは思われない場合は、口頭で注意するだけで済ませることも考えられます。
従業員の仕事に対するモチベーションを落とさず反省を促すためには、口頭での注意が有力な選択肢となるでしょう。 -
(3)懲戒処分
カラ残業による残業代の不正受給は、使用者である企業に対する詐欺行為であり、就業規則違反に該当します。したがって企業としては、カラ残業をした従業員に対して懲戒処分を行うことも十分考えられます。
ただし、懲戒処分を行う際には、懲戒権の濫用に当たらないように留意しなければなりません。従業員の行為の性質や態様などに照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められない懲戒処分は、懲戒権の濫用として無効となります(労働契約法第15条)。
懲戒権の濫用を避けるには、カラ残業に関する事実関係を正確に把握した上で、それに見合った程度の懲戒処分を検討することが大切です。その際は、過去に同じような事例でどのような懲戒処分がなされたのかという観点からの検討も有効です。
また、最初は口頭での注意にとどめ、従業員が従わなければ段階的に懲戒処分を行うなどの対応をすれば、懲戒権の濫用と判断されるリスクが低くなります。 -
(4)不正受給した給与の返還請求
企業は、カラ残業をした従業員に対し、不正受給した給与の返還を請求できます。
ただし、不正受給された給与の額を、将来的に支払う給与の額から控除することはできません(労働基準法第24条第1項)。あくまでも給与は全額を支払った上で、別途不正受給金の返還を請求する必要があります。
弁護士のサポートを受けながら、示談交渉や訴訟などを通じて不正受給金の回収を目指しましょう。
4、カラ残業を防ぐために企業がとるべき対策
従業員によるカラ残業を防ぐため、企業としては以下のような対策を講じましょう。
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(1)勤怠管理システムを導入する
カラ残業のリスクを最小限に抑えるためには、パソコンやICカードなどによる勤怠管理システムを導入するのが効果的です。
残業時間を労働時間の自己申告制としていると、従業員側にカラ残業で残業代を水増ししようとする誘惑が働いてしまいます。デジタル勤怠管理システムを導入すれば、カラ残業をしようとする従業員は大幅に少なくなるでしょう。
それでもあえてカラ残業をしようとする従業員については、悪質であることを理由に懲戒処分がしやすくなります。 -
(2)残業に関するルールを整備する
残業を許可制とするなど、企業側が把握していない残業をなくせるようなルールを整備することも、カラ残業対策として有効です。
労働基準法に則った残業時間や休日出勤の制限、ルール作成には弁護士のサポートが有効です。残業に関するルールを整備したら、そのルールをすべての従業員に対して周知しましょう。 -
(3)従業員に対する教育を徹底する
手軽さや「他の人がやっているから」などの理由で、カラ残業を軽い気持ちで行う従業員がいるかもしれません。しかし、カラ残業は使用者に対する詐欺であり、れっきとした違法行為です。
企業としては、従業員に対して定期的にコンプライアンス研修を行い、カラ残業が違法行為であることを周知しましょう。発覚した際には懲戒処分を含む厳しい対応を行うことを明確化すれば、カラ残業を行う従業員も大幅に減ると思われます。 -
(4)弁護士に相談する
カラ残業を含めて、企業内における従業員の不正行為を抑止するためには、弁護士に相談することをおすすめします。
弁護士に相談すれば、企業の実情に合わせたコンプライアンス強化策や、労働時間の管理方法などのアドバイスを受けられます。実際にカラ残業などの不正行為が判明した場合には、懲戒処分の可否に関する検討や、返金請求の手続きなどのサポートを依頼することも可能です。
労働トラブルの実績豊かな弁護士のアドバイスやサポートを受けることが、従業員の不正行為やトラブルを抑止するためのポイントです。また、顧問弁護士を利用するのも有効な手段でしょう。
ベリーベスト法律事務所では、手ごろな月額固定制から始められる顧問契約サービス「リーガルプロテクト」をご用意しています。締結すれば、いつでも人事・労務管理について相談ができますので、まずはお気軽にご検討ください。
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5、まとめ
いわゆる「カラ残業」により、従業員が不正打刻や残業代の不正請求をしていることが判明しても安易に懲戒処分を行うと、従業員に反発されてトラブルになるおそれがあります。
カラ残業への対応策や再発防止策などについては、弁護士のアドバイスを受け、慎重に行うのが望ましいでしょう。
ベリーベスト法律事務所は、人事・労務管理に関する企業のご相談を随時受け付けております。カラ残業対策のほか、残業代請求への対応や懲戒処分の可否の検討など、従業員に関する問題を幅広くご相談いただけます。
顧問弁護士サービスもご用意しており、クライアント企業のニーズに応じて、リーズナブルな料金からご利用いただけます。従業員のカラ残業にお困りの企業や、労務上のコンプライアンスを強化したい企業は、ベリーベスト法律事務所へご相談ください。
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