高度プロフェッショナル制度とは? 制度のメリットや導入手順とは?

2025年06月18日
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高度プロフェッショナル制度とは? 制度のメリットや導入手順とは?

令和5年度に埼玉県内の総合労働相談コーナーに寄せられた相談は4万8106件で、そのうち法制度に関する問い合わせは2万9316件でした。

高度プロフェッショナル制度は、働き方改革関連法に基づいて導入された制度で、労働生産性の向上や残業代の削減、能力の高い労働者の採用など、企業にとって魅力的なメリットがあります。

本記事では、高度プロフェッショナル制度の3つのメリットや導入手続きなどを、ベリーベスト法律事務所 浦和オフィスの弁護士が解説します。

1、高度プロフェッショナル制度とは?

高度プロフェッショナル制度とは、一定の高収入(令和6年度は年収1075万円以上)の高度な専門知識を有する労働者を対象とした制度です

  1. (1)高度プロフェッショナル制度の概要

    高度プロフェッショナル制度は、高度な専門知識を持ち、一定の高収入(令和6年度は年収1075万円以上)がある労働者に対して、自由な働き方をベースに労働生産性を向上させることを目的としています。

    高度プロフェッショナル制度が適用される労働者は、業務の進め方について具体的な指示を受けず、広い裁量が認められます

    一方で、労働基準法において定められた労働時間・休憩・休日・深夜の割増賃金に関する規定は、高度プロフェッショナル制度の労働者には適用されません

    そのため、対象労働者が「働きすぎ」の状態に陥ってしまうリスクがあります。制度の運用にあたっては、労働者の健康や福祉を確保する措置(=健康・福祉確保措置)などを講ずることが義務付けられています。

  2. (2)高度プロフェッショナル制度と裁量労働制の違い

    高度プロフェッショナル制度と類似した制度として、「裁量労働制」があります。

    裁量労働制は、高度プロフェッショナル制度と同様に、労働者に広い裁量を認めていますが、対象となる業務が異なります(高度プロフェッショナル制度の対象業務は2章で後述)。

    厚生労働省は、専門業務型裁量労働制の対象として以下の20業務を挙げています。

    専門業務型裁量労働制の対象とする業務
    ① 新商品や新技術などの研究開発、または人文科学や自然科学に関する研究
    ② 情報処理システムの分析または設計
    ③ 記事や放送番組の取材・編集
    ④ 新たなデザインの考案
    ⑤ 放送番組や映画などのプロデューサー・ディレクター
    ⑥ コピーライター
    ⑦ システムコンサルタント
    ⑧ インテリアコーディネーター
    ⑨ ゲーム用ソフトウェアの創作
    ⑩ 証券アナリスト
    ⑪ 金融商品の開発
    ⑫ 大学における教授研究
    ⑬ M&Aアドバイザリー
    ⑭ 公認会計士
    ⑮ 弁護士
    ⑯ 建築士
    ⑰ 不動産鑑定士
    ⑱ 弁理士
    ⑲ 税理士
    ⑳ 中小企業診断士


    企画業務型裁量労働制の対象業務
    事業の運営に関する事項についての企画・立案・調査・分析


    また、高度プロフェッショナル制度は令和6年度では年収1075万円以上の労働者が対象ですが、裁量労働制には年収要件が設けられていません

    さらに、高度プロフェッショナル制度の労働者には深夜手当が支給されませんが、裁量労働制の労働者には深夜手当が支給されるなどの違いがあります。

2、高度プロフェッショナル制度の対象となる従業員・業務

高度プロフェッショナル制度の対象となる業務は、令和7年6月時点では以下のとおりです。
ただし、業務に従事する時間に関して、使用者から具体的な指示を受けて行う業務は対象外となります。
また、これらは業務を指しており、職種を指すものではありません。

高度プロフェッショナル制度の対象業務
① 金融工学等の知識を用いて行う、金融商品の開発(アクチュアリーなど)
② 金融知識等を活用し、自らの投資判断に基づいて行う資産運用の業務、または有価証券の売買その他の取引(アセットマネージャー、ファンドマネージャーなど)
③ 有価証券市場における相場等の動向または有価証券の価値等の分析・評価、またはこれに基づく投資助言(証券アナリストなど)
④ 顧客の事業の運営に関する重要な事項についての調査・分析、およびこれに基づく考案・助言(コンサルタントなど)
⑤ 新たな技術・商品・役務の研究開発(企業の研究職など)


また、高度プロフェッショナル制度を適用するためには、以下の3点を満たす必要があります。

  • 労働者本人が書面または電磁的記録によって適用に同意したこと
  • 労使の合意に基づき職務が明確に定められていること
  • 賃金の見込み額が年間1075万円以上であること
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3、高度プロフェッショナル制度のメリット

企業が高度プロフェッショナル制度を導入するメリットとしては、主に以下の3点が挙げられます。

  1. (1)労働生産性が向上する可能性がある

    高度な専門知識を有する労働者は、知識が十分でない上司が具体的にあれこれ指示するよりも、本人の自由な判断で働かせた方が大きな成果を得られることが多いです

    また、自由な働き方が認められることによって、対象労働者が働きやすさを感じ、モチベーションが向上してさらに生産性が向上する可能性もあります。

  2. (2)残業代を削減できる

    高度プロフェッショナル制度が適用される労働者に対しては、対象となる業務に従事した時間に関して、残業代を一切支払う必要がありません。
    なお、対象業務以外の業務に従事した時間がある場合、その時間については残業代が発生する可能性があります。

    専門知識を有する労働者は、労働時間が長くなりがちです。高度プロフェッショナル制度を導入すれば、残業代を削減し得るとともに、人件費の見通しを立てやすくなります

  3. (3)能力の高い労働者の採用につながる

    高度プロフェッショナル制度で働く労働者には、上司の指示や定時などに縛られない自由な働き方が認められます。

    能力の高い労働者は、業務に関して広い裁量が与えられる職場を好む傾向にあります。そのため、優秀な労働者を採用したい企業においては、高度プロフェッショナル制度の導入がプラスに働く可能性があるでしょう

4、高度プロフェッショナル制度を導入するための手続き・流れ

企業が高度プロフェッショナル制度を導入する際には、以下の流れで手続きを行いましょう。



それぞれ、詳しく解説します。

  1. (1)労使委員会を設置する

    高度プロフェッショナル制度の導入について話し合うためには、労使委員会を設置する必要があります

    労使委員会の委員は計3名以上で、そのうち半数以上は、過半数労働組合または労働者の過半数労働者によって指名された者としなければなりません。

    労使委員会を設置する際には、以下の事項を定めた運営規程の作成が必要とされています。

    • 労使委員会の招集に関する事項
    • 労使委員会の定足数に関する事項
    • 労使委員会の議事に関する事項
    • その他労使委員会の運営について必要な事項
    • 労使委員会が労使協定に代えて決議を行うことができる規定の範囲
  2. (2)労使委員会で制度の導入を決議する

    労使委員会では、高度プロフェッショナル制度の導入について以下の事項を決議します。労使委員会の決議には、出席委員の5分の4以上の賛成が必要です。

    ① 対象業務

    ② 対象労働者の範囲

    ③ 健康管理時間を把握する措置
    ※健康管理時間=事業場内にいた時間+事業場外において労働した時間

    ④ 年間104日以上、また4週間を通じて4日以上の休日を確保する旨

    ⑤ 選択的措置
    ※以下のいずれかから選択する
    (a)11時間以上の勤務間インターバルを確保し、かつ深夜業の回数を1か月当たり4回以内に制限する
    (b)週40時間を超える健康管理時間を、1か月につき100時間以内、または3か月につき240時間以内に制限する
    (c)1年に1回以上、連続2週間(本人が請求した場合は連続1週間×2回以上)の休日を付与する
    (d)週40時間を超える健康管理時間が1か月につき80時間超の労働者、または申出があった労働者を対象として、臨時の健康診断を実施する

    ⑥ 健康管理時間の状況に応じた健康・福祉確保措置
    ※選択的措置とは別に、以下のいずれかから選択する
    • 勤務間インターバルの確保
    • 深夜業の制限
    • 労働時間の制限
    • 年次有給休暇の取得促進
    • 医師による面接指導
    • 特別休暇の付与
    • 健康診断の実施
    • 健康問題に関する相談窓口の設置
    • 配置転換
    • 保健指導

    ⑦ 同意の撤回に関する手続き

    ⑧ 苦情処理に関する措置

    ⑨ 制度の適用に労働者が同意をしなかった場合に、不利益な取り扱いをしてはならない旨

    ⑩ 決議の有効期間の定め、および自動更新をしない旨

    ⑪ 労使委員会の開催頻度および開催時期

    ⑫ 労働者の健康管理等を行うため、必要な知識を持つ医師を選任すること
    ※常時50人未満の労働者を使用する事業場に限る

    ⑬ 以下の事項に関する記録を、決議の有効期間中およびその期間満了後3年間保存すること
    (a)対象労働者の同意およびその撤回
    (b)労使の合意によって定められた職務の内容
    (c)支払われると見込まれる賃金の額
    (d)休日付与の状況
    (e)選択的措置の状況
    (f)健康・福祉確保措置の状況
    (g)苦情処理措置の状況
    (h) 常時50人未満の労働者を使用する事業場における医師の選任
  3. (3)労働基準監督署長に届け出る

    高度プロフェッショナル制度の導入に関する労使委員会決議は、労働基準監督署長に対して届け出なければなりません

    届出の様式(=様式第14号の2)は、労働基準監督署の窓口で交付を受けられるほか、厚生労働省のウェブサイト「主要様式ダウンロードコーナー(労働基準法等関係主要様式)」からもダウンロードできます。

  4. (4)対象労働者の同意を得る

    高度プロフェッショナル制度を適用する労働者からは、以下の事項を明らかにした書面に署名してもらい、適用についての同意を得なければなりません

    ① 同意をした場合は、労働時間・休憩・休日・深夜の割増賃金に関する規定が適用されない旨
    ② 同意の対象となる期間
    ③ 同意の対象となる期間中に支払われると見込まれる賃金の額


    なお、対象労働者が希望した場合は、上記事項を記録した電磁的記録の提供を受ける方法で同意を得ることもできます。

  5. (5)制度の運用開始と注意点

    上記の手続きが完了したら、労働者を対象業務に就かせ、業務を開始します。

    高度プロフェッショナル制度の運用においては、特に以下のポイントに注意しましょう。

    ① 健康管理時間を把握する
    ② 休日を適切に与える
    ③ 選択的措置および健康・福祉確保措置を実施する
    ④ 苦情処理措置を実施する
    ⑤ 高度プロフェッショナル制度に同意しなかった労働者につき、不利益な取り扱いをしないよう、人事の運用に注意が必要となる
    など

5、高度プロフェッショナル制度の労働者に訴えられたらどうすべき?

高度プロフェッショナル制度の運用方法を巡っては、労使間でトラブルが発生するケースもあります。労働者側が不適切な運用を指摘して、残業代の支払いなどを請求してくるリスクもあり得ます。

もし労働者との間でトラブルが発生したら、速やかに弁護士へ相談しましょう。顧問契約を締結しておけば、労使トラブルについてスムーズに弁護士のアドバイスを受けられます。

ベリーベスト法律事務所では、月額固定制で、企業が直面する多様な問題に対応する顧問弁護士サービスをご用意しています。まずはお気軽にご相談ください。

6、まとめ

高度プロフェッショナル制度を導入すると、専門性の高い労働者の生産性が向上する、残業代を削減できるなどのメリットがあります。

ただし、高度プロフェッショナル制度に特有の注意点が多々存在するため、導入に当たっては弁護士のサポートを受けることをおすすめします

ベリーベスト法律事務所では、労務管理に関する企業のご相談を随時受け付けております。高度プロフェッショナル制度の導入をご検討中の企業は、まずは当事務所までご相談ください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています